草間時彦『盆点前』(1998年2月/永田書房)

著者 草間時彦
タイトル 盆点前
出版年月/出版社 1998年2月/永田書房 受賞回[年] 14回[1999年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  一九二〇年五月一日東京生まれ。武蔵高中退。水原秋桜子、石田波郷に師事。五四年に鶴俳句賞受賞。五一年三共株式会社に入社。七五年定年退職後は俳句文学館建設に従事。八一年より九三年まで俳人協会理事長。句集に『中年』『朝粥』『典座』など。

[受賞のことば]
 『盆点前』は私の第七句集である。私は今、七十九歳であるから、七十になってからの句集である。
  七十になったからには老、病、死をテーマとして詠みたいと念じた。しかし、やってみると思うように出来なかった。
  夫婦老いどちらが先かなづな粥  時彦
  おじんにはおじんの流儀花茗荷  〃
  どうやっても句がうすぎたなくなってしまうのである。結局、それは私の詩人としての才が乏しいからだと思っている。
  背伸びをせずに私は私なりの歩みをしよう。
  それが受賞の感想である。

 
[作品抄出]

ワイシヤツの麻の真白の梅雨入りかな

道ばたや百日草のよごれざま

虔しく牡丹落葉の始まりし

    深大寺
墓守の小菊ばかりの菊畑

老斑の指延ばし鮎むしりをり

歌舞伎座におでんやのある年の暮

着るものにうるさい親父つりしのぶ

盆点前庭面いよいよ茂りたる

    身辺  訃報多し
死神のうろうろしてる落葉かな

    東寺
売つてゐるみやここしまき初大師

    大磯
とら饅頭西行饅頭庵長閑

    浅草
焼海苔でお酒を貰ふ余寒かな

    南予
不器男忌の過ぎし野山の初桜

更衣ついでに寝巻替へにけり

暑さぼけいやほんぼけぞ茶漬食ふ

そのたびに酔深くなる流れ星

    東吉野村
石鼎の村の大きな露の玉

茸番がハーレーダビツトソンで来し

戌年が来るよ吾が家のビーグルに

八つ口の汗ばみてゐし螢かな

半分は捨てるつもりの夏大根

    東吉野村
月白もなく上りけり後の月

しろじろと夕月のあり漱石忌

  十二月二十一日  京都東寺
あんのじやうしまい弘法しぐれけり

    その昔
角袖は伊志井寛らし仲見世に

東京に春の雪降る焼リンゴ

よきことは遠くにありてすみれ籠

しまあじをサラダ仕立や夜の秋

    西安
羊焼く煙の中の今日の月

    上海
旅人にオールドジヤズの霧月夜

坐りたくなりし河原の濃なでしこ

あたためてありし夜寒のお取り皿

    京都
鞍馬まで個人タクシー山椒の芽

春月や酒量落ちたる影法師

    京都
川風の植物園の初ざくら

(掲載作選出・飯島晴子)

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