友岡子郷『友岡子郷俳句集成』(2008年11月/沖積舎)「『雲の賦』以後」より

著者 友岡子郷
タイトル 友岡子郷俳句集成
出版年月/出版社 2008年11月/沖積舎 受賞回[年] 24回[2009年]
分野 俳句部門 分類 作品

[略歴]
  一九三四年神戸市生まれ。十代終わり頃より作句。「ホトトギス」「青」を経て六八年「雲母」に移り、飯田龍太に師事。第一回雲母選賞、第二五回現代俳句協会賞受賞。既刊の八冊の句集に未刊句集を含め『友岡子郷俳句集成』刊行。他に『飯田龍太鑑賞ノート』など著書多数。

[受賞のことば]
  私は疎開児童の世代。山村の父の生家に疎開し、一年後に敗戦。小学校五年生でした。二人の叔父が戦死。翌年母が病死。軍国少年たれが一変し、米国の民主主義に倣えと言われても、少年の私には全く理解不能でした。俳句を始めたのは十代の終わり。有季定型という堅固な詩型は、懐疑に揺れる私の心を集中させ、何が不変の純真さなのかを問おうとする志を育みました。以後この歳になるまで私は俳句と共に生きてきたと思います。このたびの受賞は望外の喜びです。多くの方々のご温情に心こめて感謝申し上げます。

 
[作品抄出]

水吞みに来て映る鳥春隣

亡きひとの家路は芹の水に沿ひ

初花や文鎮のせしものしづか

去年こぞここより柩送りし花しどみ

あをぞらの痛むほど薔薇剪りゐたり

夏の雲渚は果てかはじまりか

義父のごと離れ立ちたる夏木あり

海彼より来るは風のみ長崎忌

海は秋足あとほどに人は居ず

秀でたる一峯よりの秋思かな

湯冷ましは水より淋し虫の夜

別のさみしさ夕雨の塔と鹿

かの遺書は冬の銀河を流れゐむ

海難碑春の飛魚一つとび

  福田甲子雄氏逝く
天命の竹の葉の降りやまぬなり

開襟の涼しさに島いくつ見ゆ

後ろ手をつけば雁わたりをり

冬晴や舟は竜骨より造り

返り花一会のあとはまた孤り

鏡餅沖べ白むはき風か

雪岳は青砥のごとく夕翳り

粗挽珈琲つばめ飛びはじめけり

遠き日も今も雨音春苺

蛤も浅蜊も雨の日なりけり

蜘蛛の囲のなかを真白き船通る

をととひはたしか風の日藤袴

  三月六日、飯田龍太先生の葬にて
春の富士耿々かうかうと亡き師に会ひに

塩味の草餅を人憶ひつつ

寂しさの春灯消してまた点けて

少年に鹹き夏来たりけり

師と隔たりて百日の鳳蝶

鱧の骨切り笹風のごとしとも

龍太忌の足もとに来る白波ぞ

震災慰霊の花種を蒔く何が咲く

まつさらの雲浮かみゐる厩出し

初蝶やそのあとは風そのあとも

春の沖白木の弓を置くごとし

汐干籠大き夕日に照らさるる

(掲載作選出・寺井谷子)

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